食DE健康テーマ
「炭水化物・糖質」
Q 01ダイエットのために、ご飯やパンの代わりにおかずをたくさん食べています。体重は減りますか?
A 01体重変化にはほとんど差がありません。
世間では糖質制限ダイエットがはやっていますね。糖質とは、ご飯やパンなど、体内でエネルギーになるものです。普段の食事から主食となる糖質を減らせば確実に体重は減ります。しかし、減らした糖質をタンパク質や脂質で補った場合も、体重は減少するのでしょうか?
これらを検証するために海外ではさまざまな研究が行われています。
下図は、肥満者をランダムに、「低糖質食を取る群」と、「現時点で健康だと考えられている食事を取る群(対照食群)」の2つのグループに分け、体重の変化を調べた19の研究結果です。
縦軸は体重の変化で、ピンクは「低糖質食群」、青は「対照食群」です。
もし、“糖質制限ダイエットで痩せる”なら、図中のピンクと青に明らかな差があるはずですが、2つの群に明らかな差は認められませんでした。つまり、糖質制限の有無は体重の変化にほとんど関係がないと言えます。また、別の研究からは総エネルギー摂取量が同じならば、どの栄養素(糖質、タンパク質、脂質)からエネルギーを取っても体重変化にほとんど差がないという結果が出ました。
糖質制限ダイエットの効果を科学的に調べるのは難しく、まだ研究中で結論は出ていません。流行にのって糖質制限ダイエットをするよりも、ご自身の食生活を見直し、取りすぎている栄養素を減らしたほうが効果的かもしれません。
低糖質食を取っても、バランスの良い食事を取っても、体重の減り方に違いはありません。
何か取りすぎている栄養素がないか食生活を見直してみましょう。
[参考文献]
Naude CE,et al.Low Carbohydrate versus isoenergetic balanced diets for reducing weight and cardiovascular risk:a systematic review and meta-Analysis. PLoS One 2014;9:e100652.
詳しくは『佐々木敏の栄養データはこう読む!(237~246ページ)』(女子栄養大学出版部)をご覧ください。
機関誌mio 2018年4月号掲載
Q 02血糖値はどうして上がるのですか?
A 02食事の中から吸収される糖によって血糖値は上がります。
食事をとると、その中の栄養素が消化・吸収されます。糖を食べれば血糖値が上がるのは正常な反応ですが、同じ量の糖を含む食べ物でも、血糖値の上がり方は食べ物によって異なります。この食品ごとに異なる血糖上昇量を調べた数値が「グリセミック・インデックス(GI)」です。食品の栄養素の量は化学分析で求めますが、GIは人が実際に食べたときの血糖値の上昇量を測ります。ところが同じものを食べても血糖値の上がり方は個人差があるため、10人以上で測ってその平均値をとります。
図は糖を豊富に含む食品のGIです。白いパンは73~77、精白米ご飯は69~77、パンとご飯はほぼ同じだと考えられます。それよりも注目すべきはうどんやスパゲッティなどの麺類のGIの低さ。血糖値が比較的上がりにくいようです。
しかし、実際には一度の食事で複数の食品を食べますし、例えば納豆とご飯を一緒に食べると、ご飯だけで食べるより血糖値が上がりにくいといった「食べ合わせ効果」も報告されています。
また「糖=糖尿病」と考えがちですが、その関連は複雑でGIの低いものを食べれば糖尿病にならないという単純なものではありません。あくまでも体重管理・運動・減塩・飽和脂肪酸を減らし、食物繊維を増やすといった予防手段を守ったうえで、糖の吸収が低めの食べ物をGIを参考に選び、糖尿病の予防の一手段として生かしていただければと思います。
血糖の上がり方を食品ごとに示した指標がGIです。血糖値を上げないためにはGIが低い食べ物がおすすめですが、食事のGIが低ければ、糖尿病は大丈夫というわけではありません。
[参考文献]
Brouns F, et al. Glycaemic index methodology. Nutr Res Rev 2005; 18: 145-71
Atkinson FS, et al. Internnational tables of giyoemic index and glycemic load values: 2008. Diablues Care 2008; 31: 2281-3.
詳しくは『佐々木敏のデータ栄養学のすすめ(237〜246ページ)』(女子栄養大学出版部)をご覧ください。
機関誌mio 2020年4月号掲載
Q 03朝食抜きは血糖値が上がりやすいって本当ですか?
A 03朝食を抜くと、昼食後、夕食後の血糖値が上がることが報告されています。
「朝食抜きと血糖値の上昇について、糖尿病の患者さん22人に、朝食・昼食・夕食とも均等に701kcal(糖は82g)ずつとる日(計2103kcalと247g)と、朝食を抜いて昼食・夕食で701kcal(糖は82g)ずつとる日(計1402kcalと165g)を両方体験してもらい、血糖値の変化を比べた研究があります(図)。朝食を抜いた日のほうが午前中の血糖値が低いのは当然ですが、昼食後と夕食後の血糖値は朝食をとった日よりもかなり高くなりました。これは最初にとった食事(ファーストミール)が、次にとる食事(セカンドミール)の後の血糖値に影響を及ぼす「セカンドミール効果」と呼ばれる現象です。
また、朝食を抜いた日のほうが1日全体のエネルギーと糖の摂取量が少なかったにもかかわらず、朝食をとった日より、すい臓(血糖値を下げるインスリンを分泌)への負担が大きかったことも分かっています。
朝食の頻度と糖尿病の発症リスクについて調べた研究では、朝食を毎日とっていた人たちは抜いていた人たちに比べて、発症率がおよそ4割も低くなっていました。また、朝食を抜いていた人たちのほうが体重が増えていたということも報告されています。
このように、朝5分余計に眠りたいがために抜いた朝食で、知らないうちに血糖値が上がり糖尿病になってしまうとしたら怖いですね。
「早寝、早起き、朝ごはん」という運動が、子どもたちの健全な成長のために推進されていますが、大人の糖尿病予防や管理の見地からも、科学的な根拠に基づいたアドバイスといえます。1日全体のエネルギーと糖のとり方を、夕食から朝食にシフトしましょうという提案だと理解できます。
「早寝、早起き、朝ごはん」。糖尿病の予防と管理には、朝型食生活をおすすめします。
[参考文献]
Jakubowicz D, et al. Fasting until noon triggers increased postprandial hyperglycemia and impaired insulin response after lunch and dinner in individuals with type 2 diabetes: a randomized clinical trial. Diabetes Care 2015; 38: 1820-6.
詳しくは『佐々木敏のデータ栄養学のすすめ(258~266ページ)』(女子栄養大学出版部)をご覧ください。
機関誌mio 2020年5月号掲載
Q 04糖質制限と脂質制限はどちらのほうが痩せますか?
A 04痩せるか否かは、糖質や脂質の制限ではなく、エネルギー(カロリー)摂取量にあります。
現在、世界でも日本でも低糖質ダイエットが注目されていますが、糖質とは体内でエネルギーになる炭水化物の総称です。エネルギー源となる栄養素は糖質・脂質・たんぱく質、アルコールの4種類だけですから、他の栄養素を変えずに糖質(炭水化物)だけを制限すれば体重は減ります。問題は減らした分のエネルギーを脂質やたんぱく質でとったときに体重は減るか?です。
アメリカで実施された最も規模が大きく、研究期間も長く、緻密な計画に基づいた糖質制限ダイエットの研究から分かったことは、総エネルギー摂取量が同じならば、どの栄養素からエネルギー(カロリー)をとろうと体重変化にほとんど違いはないという当たり前の結果でした。(図)
ただ、食事療法の効果を科学的に調べるのはとても難しいのです。人は体によいことを一つ始めると、体によいと分かっている他のこと、例えばバランスのよい食事や運動など自発的に始めて生活習慣を変えてしまうことが多いため、出された結果が糖質制限ダイエットの効果なのか調べることが難しく、最終的な結論はまだ出ていません。
現時点でいえることは、痩せるか否かは、糖質の制限ではなくエネルギー摂取量にあるということです。ちなみに同じエネルギーであれば、脂質が皮下脂肪や内臓脂肪に変わりやすいということもありません。
ダイエットを始めようと思うのであれば、糖質や脂質だけでなくエネルギー(カロリー)全体の摂取量を少し控え、毎日のくらしの中で運動や生活習慣を意識しましょう。
[参考文献]
Sacks FM, et al. Comparison of weight-loss diets with different compositions of fat, protein, and carbohydrates. N Engl J Med.2009;360:859-73
詳しくは『佐々木敏の栄養データはこう読む!(237~246ページ)』(女子栄養大学出版部)をご覧ください。
機関誌mio 2020年6月号掲載
Q 05「野菜先食べ」と「三角食べ」はどちらがよいのでしょうか?
A 05野菜を先に食べると食後の血糖値の上昇が緩やかになり、「三角食べ」は一口ごとに口内調味で味わいを楽しめます。
胃の中にあらかじめ野菜を入れておけば、空っぽの胃に糖が入ってきたときよりも血糖値の上昇が緩やかになるのは当然のことで、理にかなっています。これを実証した研究(図)があり、糖尿病の人でも、健康な人でも、野菜を先に食べるとご飯を先に食べた場合よりも食後血糖値の上昇が緩やかになっています。
ただ、先に食べる野菜の摂取量が増えれば主食の食べ過ぎを防げますし、しっかりかまないと飲み込めない野菜を多く食べれば、結果としてゆっくり食べることになり血糖値の上昇は緩やかになるということもありますので、この研究結果から、直ちに私たちの食生活を「野菜先食べ」に変える根拠とするには少し無理があります。
一方「三角食べ」は主食・主菜・副菜を順に少しずつ食べる食べ方で、これらを口の中で混ぜて味の広がりを楽しみます。これを口内調味といいます。「三角食べ」では一度に口に入れる量はわずかで、それを一口ごとに口内調味で楽しみますので、大量にほおばってかまずに飲み込むような早食いにはなりません。
野菜を十分にとり、主食の食べ過ぎを防いで、しっかりかんでゆっくり食べるのなら、「野菜先食べ」と同じ目的を達成できそうです。結論を出すのは少し早いかもしれませんが、野菜を先に食べるのも三角食べで口内調味を楽しむのも、糖尿病管理に好ましい食べ方のようです。
食事に求めるものは人それぞれ。野菜をたくさん食べ、ご飯を控えてゆっくりかんで食べるのであれば、どちらもよい食べ方なのです。
[参考文献]
Imai S, et al. Effect of eating vegetables before carbohydrates on glucose excursions in patients with type 2 diabetes. J Clin Biochem Nutr 2014; 54: 7-11.
詳しくは『佐々木敏のデータ栄養学のすすめ(227~236ページ)』(女子栄養大学出版部)をご覧ください。
機関誌mio 2020年7月号掲載
Q 06子どもが甘いジュースや炭酸飲料ばかり飲んでいて、肥満が心配です。
A 06ソフトドリンクを飲み続けると肥満を招きますが、それよりも注意したいのは、油脂類や菓子の摂取量が増えることによる栄養の偏りです。
ソフトドリンクの摂取頻度が肥満の発生に及ぼす影響について調べた海外の研究がいくつかあります。細かな研究方法の違いはありますが、全体としては、確かに甘いソフトドリンクを飲み続ければ、そのカロリーによって肥満を招くようです。
では、太らない量なら問題ないのでしょうか?「太らないようにダイエットコーラにしている」という話も耳にします。日本の女子大生3,931人を対象として、過去1カ月間のソフトドリンクの摂取量と食習慣全体を調べた研究(図)があります。
それによると、ソフトドリンクの摂取量が多い人ほど油脂類と菓子の摂取量が多く、しっかりと食べてほしい魚介類、果物、牛乳・乳製品、野菜、大豆製品の摂取量が少ないことが分かりました。そして、それはたんぱく質、カリウム、カルシウム、食物繊維の少なさに反映されています。ソフトドリンクの摂取量が多い人ほど、バランスのよい食事をとれていないことが想像できますね。このような食生活が長く続けば、肥満だけでなく、骨粗しょう症や脂質異常症などあらゆる病気にかかりやすくなってしまいます。
ですから、人工甘味料で調整したカロリーフリーの飲み物に変えても基本的には同じことでしょう。さらに注意すべき点は、肥満になる確率はソフトドリンクを飲む頻度が増えるほど高くなるのではなく「1日1回以上か未満か」が境目になっているという研究結果です。含まれているカロリーよりも、むしろ、きちんとした食事をとるという基本的習慣を奪ってしまうことが問題だと考えられます。
ソフトドリンクの飲みすぎによる怖さは、太ることよりも「きちんとした食事をとるという基本的習慣」を奪ってしまうことです。
[参考文献]
Yamada M, et al. Soft drink intake is associated with diet quality even among young Japanese women with low soft drink intake. J Am Diet Assoc 2008; 108: 1997-2004.
詳しくは『佐々木敏の栄養データはこう読む!第2版(156~164ページ)』(女子栄養大学出版部)をご覧ください。
機関誌mio 2020年8月号掲載
Q 07低糖質ダイエットで糖尿病は予防できますか?
A 07糖尿病は、その名前から想像できないくらいに複雑な病気で、現時点ではなんともいえません。
糖尿病は血液中の糖の量が増えて、それが体のさまざまなところで問題を起こす病気だと聞くと、それなら糖を食べなければよいのだと私たちは単純に考えがちです。糖尿病の患者さんを対象に、低糖質ダイエットで糖尿病は改善するかという研究は世界中でかなりあり、その結果を見てみると、厳しい糖質制限を3カ月行った研究では改善に効果がありましたが、半年以上の研究では効果がうすれ、1年間の研究ではまったく効果は認められなくなりました。糖尿病の改善には糖質の相当厳格な制限が必要で、半年以上続けるのはかなり難しいようです。
次は予防です。日本人の男女それぞれ約3万人を調べた研究Aは、性別で結果が違っていて、女性では炭水化物の摂取量が多いほど糖尿病の発症率が上がっていました。また男性約2,000人を調べた研究Bは、研究開始時の肥満(BMI25.0以上)の有無で分けて調べ、肥満だった人たちでは炭水化物摂取量が多いほど発症率が上がっていました。4つの結果から研究Aの女性と研究Bの肥満だった人たちで低炭水化物のほうが予防できる可能性を示しています。
私たちは「糖=糖尿病」と単純に考えがちですが、糖尿病は、その名前から想像できないくらいに複雑な病気で、糖の摂取量と糖尿病の関連は「少なくとも現時点では結論は出せない」というのが研究者の一致した意見です。ただ合併症の予防と管理には食事ごとのエネルギー管理、減塩や飽和脂肪酸の制限は欠かせません。また食事に比べて運動ではかなりしっかりとしたエビデンスがあり、1日におよそ25分のウォーキングで発症率は26%も減るという結果が出ています。
現時点でのエビデンスに基づけば、糖尿病の予防と管理の優先順位は、体重管理、運動、減塩、飽和脂肪酸制限の順のようです。
[参考文献]
Nanri A, et al. Low-carbohydrate diet and type 2 diabetes risk in Japanese men and women: the Japan Public Health Center-Based Prospective Study. PLoS One 2015; 10: e0118377.
Sakurai M, et al. Dietary carbohydrate intake, presence of obesity and the incident risk of type 2 diabetes in Japanese men. J Diabetes investig 2016; 7: 343-51.
詳しくは『佐々木敏のデータ栄養学のすすめ(206〜215ページ)』(女子栄養大学出版部)をご覧ください。
機関誌mio 2021年8月号掲載
Q 08ハムやソーセージの発がん性が心配です。避けたほうがいいでしょうか?
A 08発がん性の強さは「強度」ではなく「確度」。がんの原因は複数あり、避けるべきは強度も確度も高い物質です。
2015年、国際がん研究機関(IARC)が赤身肉とその加工品(ハム、ソーセージ、ベーコンなど)には「発がん性がある」との見解を示しました。ただ、この国際がん研究機関の「発がん性がある」とした着目点は、発がん性があるといってよいか否かの確からしさ(確度)であって、どのくらい食べたら発がんするかの強さ(強度)ではありません。
赤身肉とその加工品によって起こるがんの代表は大腸がんです。大腸がんはもともと欧米諸国で多く、日本では1970年代からのわずか20年で発症率が倍増しました。心当たりはやはり食習慣の欧米化です。欧米の食事で浮かぶのは肉の多さ、脂、特に飽和脂肪酸の多さです。また肉を焼くことでできる物質や、ハム、ソーセージの発色剤として含まれている亜硝酸塩などが問題視され、推論や基礎的な研究から赤身肉が怪しいと考えられるようになりました。
生活習慣病の特徴はその原因が複数あることです。図は、食習慣などと大腸がんとの関連について世界で行われた103の研究結果をまとめたものです。要因ごとに計算方法が異なるため比較は難しいのですが、大腸がんで最も注意すべき危険因子は飲酒で、続いて糖尿病、赤身肉、赤身肉の加工品、肥満、喫煙がほぼ同じ強さで並んでいます。また身体活動(運動)が有効な予防方法だということも分かります。赤身肉には発がん性があるようですが、赤身肉だけで大腸がんが起こるわけでも、赤身肉だけ避ければ大腸がんにならないわけでもありません。日本人の摂取量は欧米諸国に比べれば少ないほうです。日本人の大腸がん予防の本質は赤身肉やその加工品を怖がることではなく、少しだけお酒を控え、糖尿病と肥満に気を付けてタバコをやめ、できるだけ体を動かすことのほうでしょう。
大腸がんに関しては具体的な予防方法がかなり明らかにされています。そのうえで、ソーセージをもう1個くらいなら食べてもよいと思います。
[参考文献]
Huxley RR, et al. The impact of dietary and lifestyle risk factors on risk of colorectal cancer: a quantitative overview of the epidemiological evidence. int J Cancer 2009; 125: 171-80.
詳しくは『佐々木敏のデータ栄養学のすすめ(340~349ページ)』(女子栄養大学出版部)をご覧ください。
機関誌mio 2022年2月号掲載