はじめよう!つづけよう!食DE健康 東京大学大学院教授佐々木先生のためになる栄養学 栄養疫学の第一人者である佐々木先生が、栄養疫学の点から見た食で健康づくりに関する情報をお届けします。

食DE健康テーマ
「食物繊維」

Q 01食物繊維は栄養素ですか?

A 01正確には栄養素ではありませんが、他の栄養素の吸収に影響します。

栄養とは、呼吸・消化吸収・排せつ・運動・成長・繁殖などの生活現象を維持し、健康な日常生活を送るために必要な物質を外界から摂取し、これを利用し、不要なものを排泄しながら生命を維持していくことを指します。

一方、栄養素とは、生活現象を営むために外界から摂取しなければならない物質のことであり、たんぱく質・脂質・炭水化物は、まとめて三大栄養素と呼ばれていますが、栄養学では「エネルギー産生栄養素」と呼んでいます。

この定義に従えば、人が食物繊維を摂取しても消化も吸収もできず、体の中で代謝されることがありませんので、正確にいえば食物繊維は栄養素ではありません。とはいえ、食物繊維は他の栄養素の吸収を阻害したり、吸収速度を遅くしたりすることによって、私たちの健康に大きな影響を与えています。

例えば、糖の吸収速度を遅くすることによって血糖値の上昇速度も緩やかになり、食後高血糖を防ぐことができます。そのため、食物繊維には糖尿病の予防効果や治療効果が期待されています。実際に、糖尿病の食事療法で食物繊維を増やして検証したところ、研究によってばらつきはありますが、食物繊維の積極的な摂取は糖尿病コントロールの一助となり得るといえそうです。だとすると、食物繊維単独ではあまり効果が発揮されず、ご飯やパンなど糖質を食べたときに、同時に野菜などで食物繊維を摂取することが大切になります。バランスよくいろいろな食品を食べることは、とても理にかなっているのです。

エネルギー産生栄養素と食物繊維図
[図]
エネルギー産生栄養素と食物繊維

食物繊維は糖質との食べあわせがカギ。ご飯やパンなどの糖質を食べるときに食物繊維を同時に食べることが大切です。

[参考文献]
厚生労働省「日本人の食事摂取基準」(2015年版)
詳しくは『佐々木敏の栄養データはこう読む!(248〜256ページ)』(女子栄養大学出版部)をご覧ください。

機関誌mio 2019年12月号掲載

Q 02食物繊維を多く摂取すれば糖尿病を予防できますか?

A 02穀物から摂取した食物繊維は、糖尿病の予防効果が認められています。

食物繊維は糖の吸収速度を遅くすることで血糖値の急上昇を緩和し、糖尿病の改善に役立つことが期待されています。食物繊維と糖との食べあわせによる効果が影響を与えていることが考えられ、これについて健康な人たちの習慣的な食事を調べ、どの人が糖尿病にかかりやすかったかを調べた観察研究があります。その中で、食物繊維摂取量と糖尿病の発症率との関連を、摂取源別に報告した研究をまとめたものが右の図です。

この図を見ると、穀物だけ、相対危険度が1.0よりも下側にあるので、穀物由来の食物繊維は糖尿病を予防する(リスクを下げる)効果が見られると解釈します。野菜とくだものは1.0をまたいでいるので、糖尿病を予防する(リスクを下げる)とも、糖尿病を増やす(リスクを上げる)ともいえないと解釈します。

この研究結果から読み取れることは「糖尿病の予防や食事療法に食物繊維は有効だが、効果が認められているものは穀物からとる食物繊維に限られるようだ」ということです。

摂取源別の食物繊維摂取量と糖尿病発症との関連図
[図]
摂取源別の食物繊維摂取量と糖尿病発症との関連

食物繊維を野菜・くだものからとるか、穀物からとるかによって糖尿病の予防効果が異なります。

[参考文献]
Schulze MB,et al. Fiber and magnesium intake and incidence of type 2
diabetes: a prospective study and meta-analysis. Arch Intern Med 2007; 167:956-65.
詳しくは『佐々木敏の栄養データはこう読む!(248〜256ページ)』(女子栄養大学出版部)をご覧ください。

機関誌mio 2020年1月号掲載

Q 03食物繊維を増やすためには、野菜をたくさん食べればいいですか?

A 03野菜よりも麦ご飯など主食からとる食物繊維を増やしましょう。

「食物繊維をもっととりたい」という場合、「野菜が足りないからもっととらなくては」と考える方が多いのではないでしょうか。私たち日本人が何からどのくらい食物繊維をとってきたのか、その推移を見てみると(図)、戦後から1970年ごろにかけて全体の食物繊維の摂取量(総量)は減り、その後横ばいになり、2005年以降に再びじわじわと減っています。

その減少は、穀物由来の食物繊維が減ったためで(1970年4.1g→2010年2.9g)、野菜やくだものに由来する食物繊維の摂取量はほとんど変わっていないか、むしろわずかに増えています。また穀物由来の食物繊維は、糖尿病の予防に効果があると多くの研究で認められており、摂取量の減少傾向も配慮すると、主食からとる穀物の食物繊維を増やしたいところです。

日本人の食物繊維摂取量の推移図
[図]
日本人の食物繊維摂取量の推移

例えば1日のうち主食1食(130g)を玄米ご飯に代えると食物繊維は1.8g、2食を胚芽米ご飯に代えると2.1g、麦ご飯に代えると2.6g摂取できます(白米ご飯2食では0.8g)。また、副菜がきんぴらごぼう(38g)なら1.9g、ゆでキャベツ(75g)なら1.5g食物繊維が摂取できます。野菜も副菜として穀物(主食)と一緒に食べるとより効果が期待できそうです。

賢い食物繊維のとり方は、主食と副菜という食事に食物繊維が入った食品をどのように組み合わせていくかにあります。意外に見過ごされがちな賢い食物繊維のとり方ですが、ご自身がおいしく長く続けられそうなとり方を考えてみましょう。

現代の日本人は穀物由来の食物繊維の摂取量が減っています。主食を麦ご飯や玄米ご飯などに代えれば、食物繊維を効果的に摂取できます。

[参考文献]
「国民健康・栄養調査報告」1952年から2011年(1952年から1998年までは推計値。1999年から2002年までは報告なし)
Nakaji S, et al. Trends in dietary flber intake in Japan over the last century. Eur J Nutr 2002; 41: 222-7
詳しくは『佐々木敏の栄養データはこう読む!(248~256ページ)』(女子栄養大学出版部)をご覧ください。

機関誌mio 2020年2月号掲載

Q 04玄米が体によいというのは食物繊維が多いからですか?

A 04玄米は食物繊維も豊富ですが、他の栄養素も詰まっています。

玄米は米の一番外側にあるもみ殻だけを取り除いたものです。果皮・種皮・糊粉層を除いて胚芽を残したものが胚芽精米、胚乳だけに精製したものが白米(精白米)です。胚乳はほぼでんぷんでできているのに比べて、胚芽や果皮・種皮などには食物繊維のほか、ビタミンB1・カリウム・マグネシウム・鉄などさまざまな栄養素が含まれています(図)。

玄米やライ麦など全粒穀物の摂取量と生活習慣病の発症率や死亡率との関連を見てみると、全粒穀物を1日あたり65g(玄米ご飯およそ茶碗1杯)を食べれば心筋梗塞と脳卒中の発症が約20%、がんによる死亡が約10%、糖尿病の発症が約30%下がると報告されています。こうした生活習慣病の予防効果は、食物繊維による肥満予防と、全粒穀物に含まれるさまざまな栄養素の効果が重なって得られるもののようです。

全粒穀物の栄養素量図
[図]
全粒穀物の栄養素量

また栄養素の効果だけでなく、全粒穀物を多く食べている人は、生活習慣病予防に好ましい果物・魚介類・野菜の摂取量も多く、過剰摂取が好ましくない砂糖・飽和脂肪酸・食塩は少なめという傾向があり、その食習慣全体のおかげで生活習慣病の予防ができているようです。

全粒穀物ほど、あらゆる生活習慣病の予防効果のある食べ物はありません。欧米の食事ガイドでは全粒穀物の摂取を強くすすめていますが、日本では、その効果があまり伝えられていません。もっと玄米をはじめとする全粒穀物の力を知ってほしいと思います。

全粒穀物はさまざまな生活習慣病予防に効果があることが分かっています。日々の食事に上手に取り入れましょう。

[参考文献]
「日本食品標準成分表2015年版(7訂)」
詳しくは『佐々木敏のデータ栄養学のすすめ(56〜65ページ)』(女子栄養大学出版部)をご覧ください。

機関誌mio 2020年3月号掲載

Q 05「早食いは太る」というのは本当ですか?

A 05食べる速度が速いほど、肥満度が高いことが科学的に確かめられています。

「よくかんでゆっくり食べましょう」と昔から言われていますが、早食いと肥満度との関連が科学的に信頼できる研究によって示されたのは最近10年程度のことです。図1は食べる速さと体重との関連を示したものです。この図から、食べる速度が速いほど平均の肥満度が高いことが分かります。「かなり遅い」群に比べて「かなり早い」群のほうが平均値として、大学生女子・中年女性で6kg、中年男性では9kgも重くなっています。

早食いが太るメカニズムとして考えられるのは、早食いだと満腹中枢が働き出す前に必要以上に食べすぎてしまうのかもしれないということと、もうひとつは早食いの人はよくかまなくても飲み下せるもの、食物繊維が少ないものなど、速く食べてしまいやすいものを選んで食す傾向があるのではないかということです。大学生女子を対象とした食べる速さと食物繊維の摂取量との関連を調査した研究(図2)でも、食べる速度が速い人ほど食物繊維摂取量が少ないことが確認され、食物繊維の摂取量が少ないと肥満になりやすいことは数多くの研究で明らかにされています。

大人だけでなく子どもたちの肥満も大きな問題です。沖縄県の小中学生を対象に行った研究から、食べる速さと肥満が強く関連していることが最近報告されています。小学校の給食時間の中で食べるために充てられる時間は約15分から20分と聞きました。早食いを介して肥満の危機にさらされているのは、むしろ子どもたちかもしれません。

食べる速さと体重との関連図 食べる速さと食物繊維の摂取量との関連図
[図1] 食べる速さと体重との関連
[図2] 食べる速さと食物繊維の摂取量との関連

「ゆっくり食べる」は科学的に確かめられたダイエット法のひとつですが、痩せるためでなく、みんなでゆっくりと食事を楽しむ社会になれば、結果として肥満も予防できると思います。

[参考文献]
Sasaki S,et al. Self-reported rete of eating correlates with body massindex in18-y-old Japanese women. Int J Relat Metab Disord 2003;27: 1405-10
Otsuka R,et al.Eating fast leads to obesity: findings based on self-administered questionnaires among middle-aged Japanese men and women.J Epidemiol 2006; 16:117-24
詳しくは『佐々木敏の栄養データはこう読む!第2版(147~155ページ)』(女子栄養大学出版部)をご覧ください。

機関誌mio 2020年9月号掲載

Q 06糖尿病が心配なので果物は控えたほうがよいですか?

A 06カリウムや食物繊維など、さまざまな栄養素が含まれる果物は、もう少し食べるほうがよさそうです。

果物に入っている糖には「果糖」という専用の名前が付けられているために、「果物→果糖→血糖→糖尿病」とつながります。でも「糖」と糖尿病の関係はそれほど単純なものではなく、血糖の「糖」はブドウ糖です。果糖も体内でブドウ糖になって血糖値を上げますが、その力はブドウ糖そのものよりもやや弱いようですので、糖尿病の予防やコントロールに果糖は好ましいと考えられます。一方、果糖はブドウ糖よりも体重増加に直結しやすいとする考え方があり、肥満は糖尿病に大敵ですから、血糖が上がりにくいからといって安心はできません。それにそもそも「果物=果糖」ではありません。果物にはカリウムや食物繊維など果糖以外にもさまざまな栄養素があり、果糖の性質だけでは果物の健康影響は判断できません。

さて、糖尿病の予防について健康な人の果物摂取量を調べて、その後の糖尿病の発症を観察した研究報告があります(図)。1日あたり250gまではリスクが下がり、その後上昇に転じています。そして400g以上になると、果物をほとんど食べない場合よりも糖尿病の発症率が高くなっています。現在、成人の平均果物摂取量は1日あたり112gですから、糖尿病を予防するためには果物をもっと食べるほうがよさそうです。それなら果物ジュースで簡単にとりたいと考えるのが人の常ですが、果物ジュースは糖尿病の予防に働いていないという研究結果が出ています。その理由として、栄養素や機能性物質が減ってしまうことと、それ以上に果物の「食べ方」の違いです。「早食い」は約2倍糖尿病にかかりやすいとした報告があり、ジュースではさらに速くなりますので、やはり果物は「食べる」もののようです。

果物摂取量と糖尿病発症率との関連図
[図]
果物摂取量と糖尿病発症率との関連

糖尿病の予防のためには、日本人はもっと果物を食べるほうがよさそうです。そのとき、ジュースではなく、「食べる」ことに意味がありそうです。

[参考文献]
Li M, et al. Fruit and vegetable intake and risk of type 2 diabetes
mellitus: meta-analysis of prospective cohort studies. BMJ Open 2014;4:e005497
詳しくは『佐々木敏のデータ栄養学のすすめ(248~257ページ)』(女子栄養大学出版部)をご覧ください。

機関誌mio 2021年3月号掲載

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