はじめよう!つづけよう!食DE健康 東京大学大学院教授佐々木先生のためになる栄養学 栄養疫学の第一人者である佐々木先生が、栄養疫学の点から見た食で健康づくりに関する情報をお届けします。

食DE健康テーマ
「ビタミン」

Q 01夏バテにビタミンB1が豊富な豚肉を食べるとよいとよく聞きますが?

A 01ビタミンB1をたくさん摂取すると夏バテが改善するという研究報告はありません。

蒸し暑い日本の夏で心配なのが夏バテです。食事で夏バテ対策といえば、豚肉。栄養素でいえばビタミンB1が定番になっているようです。しかし、実はビタミンB1の摂取量が少ない人は夏バテになりやすいとか、ビタミンB1をたくさんとれば夏バテが改善するといった研究報告はほとんどありません。

ビタミンB1は別名チアミンとも呼ばれ、炭水化物からエネルギーができるまでの代謝を助けるビタミンです。代謝経路の一部だけを取り出して強調した「ビタミンB1が足りなくなると太る」という説まで流れていますが、栄養学者が栄養欠乏症といって思い出すのは明治から昭和のはじめに国民病となった脚気(かっけ)です。脚気は体内のビタミンB1の量が著しく少なくなった結果、さまざまな体調不良が起こる病気ですが、ビタミンB1が不足すれば、太る前に脚気の症状が出るはずです。

主な食品100gあたりのビタミンB1の含有量表
[表]
主な食品100gあたりのビタミンB1の含有量

夏バテは慢性疲労の一種と考えられますが、慢性疲労に栄養がどのように関与しているかはまだ明らかにされていません。豚肉にビタミンB1が豊富なのは事実です(表参照)。しかし、夏バテの特効薬的なものではなく、食欲が低下しがちな夏場でも主菜や副菜をバランスよく食べるということを思い出すためのきっかけと思うとよいのではないでしょうか。

豚肉は夏バテ改善の切り札というわけではありませんが、ビタミンB1が豊富です。主菜・副菜に積極的に取り入れましょう。

[参考文献]
「日本食品標準成分表2015年版(7訂)」
詳しくは『佐々木敏のデータ栄養学のすすめ(124~132ページ)』(女子栄養大学出版部)をご覧ください。

機関誌mio 2019年6月号掲載

Q 021日に必要なビタミンCの量はどれくらいですか?

A 02生活習慣病予防や抗酸化作用効果から推定される成人の平均必要量は85mgです。

ビタミンCは別名アスコルビン酸といいます。比較的単純な構造の有機物ですが、熱に弱く、不安定ですぐ壊れてしまうため、その構造が明らかになるまでには歴史的に長い年月と多くの科学者の努力を要しました。

ビタミンCが不足すると、皮下の血液斑、極端な疲労、歯肉の壊死(細胞が死んでしまうこと)、体からの腐敗臭など、さまざまなゾッとするような症状が出て最終的には死に至る「壊血病」が起こります。壊血病にはビタミンCが有効であることが確かめられるまで、かつて世界中で猛威を振るいました。しかし、壊血病の予防のための必要量は1日あたり6~12mg程度と、現代社会では、極端な偏食や拒食に陥らない限り、大丈夫だと考えられます。

一方で、「日本人の食事摂取基準(2015年版)」に示されているビタミンCの成人の推定平均必要量は1日あたり85mgで、「壊血病の回避ではなく、心臓血管系の疾病予防効果ならびに抗酸化作用効果から算定」と特記されています。
さらに推奨量として100mg、妊婦はその上に10mg、授乳している人は45mgを付加することが推奨されています。
現代では生活習慣病など別の観点も重要だということです。

主な食品100gあたりのビタミンC含有量表
[表]
主な食品100gあたりのビタミンC含有量※1
※1「日本食品標準成分表2015年版(7訂)」
※2「平成28年国民健康・栄養調査報告」

ビタミンCといえばレモンやオレンジなどの柑橘類が思い浮かびますが、実はいちごのほうが多く、それよりもさらに、にがうり(ゴーヤー)に豊富に含まれています(表参照)。
ご自身のライフスタイルに合わせて上手にビタミンCをとっていただければと思います。

ビタミンCの1日の推定平均必要量は85mgですが、推奨量は100mgとされています。ご自身のライフスタイルに合わせて上手に摂取しましょう。

詳しくは『佐々木敏のデータ栄養学のすすめ(106~114ページ)』(女子栄養大学出版部)をご覧ください。

機関誌mio 2019年7月号掲載

Q 03「1日に野菜を350g以上」食べるように推奨されているのはビタミン摂取のためですか?

A 03「350g」はビタミン摂取のためだけではなく、みんなに関心を持ってもらえるイメージキャラクターのようなものと考えましょう。

「1日に野菜を350g以上」は、健康増進のために厚生労働省が提唱しているものです。しかし、どうして「350g」なのか、なぜ300gでも400gでもないのか、不思議に思ったことはありませんか?食べ物の健康効果を考えるとき、欧米では「フルーツ&ベジタブル」といって、野菜と果物を一緒に考えます。野菜と果物の合計摂取量と寿命との関連をみると(図)、野菜と果物の摂取量が多いほうが総死亡率は下がりますが、1日あたり5サービング(およそ385gから400g)くらいで下げ止まりになります。このような研究結果を受けて、欧米では「1日に5サービング」というメッセージがよく使われています。

世界では、野菜と果物を合わせて1日におよそ400gとることが推奨されています。それでは、なぜ日本では野菜が強調されるのでしょうか?日本人は歴史的にも文化的にも果物よりも野菜のほうになじみが深く、現実的に野菜のほうが安価であるといった背景もあり、「みんなでもっと野菜を食べよう」という「集団への方策」として野菜からすすめるのが現実的だと判断されたのではないでしょうか。つまり、野菜が不足している人をターゲットにするには、現時点で「個人がどれだけ野菜を食べているか」が分からないため、「みんなでもっと野菜を食べよう」という「集団への方策」が考えられたのです。

この場合、350gは目安で、「みんな」のほうが大切です。全体として少しでも摂取量が増えれば、その分だけ死亡率が下がることが期待されます。数値にはこだわらなくてもよいとはいえ、やはりみんなが少しずつでも野菜を食べる量を増やすよう心がけるのが望ましいといえます。

野菜と果物の合計摂取量と総死亡率との関連図
[図]
野菜と果物の合計摂取量と総死亡率との関連

「野菜350g」という数値そのものよりも、「みんな」が少しずつでも野菜を食べる量を増やしましょうと理解するのが正しいようです。

[参考文献]
Wang X, et al. Fruit and vegetable consumption and mortality from all causes,cardiovascular disease, and cancer: systematic review and dose-response meta-analysis of prospective cohort studies. BMJ 2014;349:g4490.
詳しくは『佐々木敏のデータ栄養学のすすめ(25〜35ページ)』(女子栄養大学出版部)をご覧ください。

機関誌mio 2019年8月号掲載

Q 04災害時などでは栄養不足による健康への影響が心配です。

A 04栄養摂取の推奨量と不足により病気を発症する量は違い、栄養以外にもさまざまな要因の影響を受けます。

現在でも地球上ではたくさんの人が栄養不足に苦しんでいますが、幸いなことにわが国では、生活習慣病などに比べればビタミンなどの栄養素の不足はまれです。しかし、災害時などの特別な状況では一時的に栄養が偏ってしまうことがあり、栄養の偏りが長く続けば健康を損なう危険性も増します。その危険を予測するためにも栄養学が役立ちます。

栄養素をどのくらい摂取すればよいかは「日本人の食事摂取基準」に記載されています。ビタミンB1の推奨量は1000kcalあたり0.54mgです。ただし、これは「ほぼ全ての人で血液中のビタミンB1の濃度が飽和量(血液濃度の最高値)に達するであろう摂取量」であって、不足による病気(ビタミンB1欠乏症、すなわち脚気)を発症する量ではないことに注意が必要です。病気の発症は、栄養の摂取量以外にもさまざまな要因の影響を受けるため、数値をはっきりと示すのは難しいのです(図)。

ビタミンはごくわずかでも食べていれば不足しない栄養素です。最も大量に必要なビタミンCでも必要量は成人で1日あたり85mg、その他はほとんど1mg程度かそれ未満です。極端に偏った食生活をしなければ不足することはまれですが、複雑なバランスの上に成り立っている健康を維持するには、正しい知識と判断力が大切です。

ビタミンB1摂取量(エネルギー1000kcalあたり)と脚気の発生や推奨量との関係図
[図]
ビタミンB1摂取量(エネルギー1000kcalあたり)と脚気の発生や推奨量との関係
※1「日本人の食事摂取基準(2015年版)」
※2「平成28年国民健康・栄養調査報告」
※3 Bates CJ. 木村美恵子(訳)。チアミン。最新栄養学(第8版)、Bowman BA,Russell RM編。2001;ILSI Press 日本語版、建帛社、2002;189−95.

ビタミンB1が不足することは現代ではまれです。だからといって、災害時への備えを軽んじてはいけません。その「備え」とは食料やビタミン剤のことではなく、ビタミンに対する正しい知識と考えます。

[参考文献]
詳しくは、『佐々木敏のデータ栄養学のすすめ(115~123ページ)』(女子栄養大学出版部)をご覧ください。

機関誌mio 2019年9月号掲載

Q 05ビタミンD不足を補うにはどうすればよいですか?

A 05食品からの摂取では、ビタミンDを豊富に含む魚などから補いましょう。

ビタミンDは、皮膚が紫外線を浴びると皮下で合成されます。しかし、紫外線つまり日光を浴びないと合成できず不足してしまいます。その場合は食べ物から補わなければなりません。

ビタミンDが不足すると「くる病」になります。これは乳幼児期の子どもに多くみられる、骨が硬くならない病気です。成長期に重くなっていく体を支えきれず、O脚またはX脚になってしまうもので、近年、日本でも増えていると警鐘が鳴らされています。また、高齢者の骨粗しょう症や骨折にも関係していると考えられています。

くる病を防ぐためには、紫外線を浴びるか、ビタミンDが豊富な魚などの食品(図)からビタミンDをとればよいのですが、実際には両方とも「そこそこ」がよいようです。紫外線を浴び過ぎれば皮膚にシミができたり、皮膚がんの原因になるといった害も気になりますし、かといってビタミンDの不足が怖いからと、多く食べ過ぎれば、過剰摂取のために病気*になってしまう危険性もあります。

皮膚が一定量のビタミンDを合成するのに必要な時間は季節や緯度により異なりますが、日本の緯度なら1年を通じてビタミンDの合成は難しくありません。お天気のよい日に外に出て日光を浴びるようにする程度で、くる病は防げると考えられます。食品からでは、日本人はおよそ8割のビタミンDを魚からとっており、魚以外では卵黄ときのこに少し含まれているのが目立つ程度です。

*食欲不振、体重減少、多尿、心臓不整脈など

魚のビタミンD含有量と脂質含有量図(可食部100gあたり)
[図]
魚のビタミンD含有量と脂質含有量(可食部100gあたり)

ビタミンDは不思議なビタミンです。皮膚で合成もできますが、食品からの摂取も必要です。私たちの健康は複雑で微妙なバランスの上に成り立っています。

[参考文献]
「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」
詳しくは、『佐々木敏のデータ栄養学のすすめ(97~104ページ)』(女子栄養大学出版部)をご覧ください。

機関誌mio 2019年10月号掲載

Q 06ビタミンAが不足しないためのおすすめ食品は?

A 06にんじんやかぼちゃなどの緑黄色野菜をたくさん入れたメニューがおすすめです。

ビタミンAは目が正常に機能するのに不可欠なビタミンで、正式な名前はレチノイドです。その内、食べ物に多く含まれているのはレチノールです。欠乏すると暗闇に目が慣れず物が見えにくい夜盲症となります。また、免疫機能にも深く関係しており、欠乏すると感染症への抵抗力が落ちます。動物のレバー、肉類、卵、牛乳などにはレチノールが豊富です。

一方、緑黄色野菜にはカロテノイドが豊富に含まれており、にんじんのオレンジ色やかぼちゃの黄色はカロテノイドそのものです。カロテノイドにはβ-カロテン、α-カロテン、β-クリプトキサンチンなどがあり、すべて野菜や果物に豊富です。
カロテノイドは必要に応じて体内でビタミンAに変換されて使われ、“プロビタミンA”とも呼ばれます。ただ、ビタミンAとしての働きの強さは、レチノールを1とすると、β-カロテンは12分の1、α-カロテンとβ-クリプトキサンチンは24分の1です。レチノールに比べると効率が悪そうですが、野菜や果物は肉などに比べて比較的安価で、一度に食べられる量が多いことを考えると、むしろ効率的な摂取源だと考えられます。

たとえば、ビタミンAの推奨量は成人女性で1日あたり650μgですが、カロテノイドが体内でビタミンAに変換される量を考慮すると、にんじん80g、または小松菜230gに含まれる量です。ほかの食品からも少しずつとれますから、日頃カロテノイドを含む食品をとっていれば、ビタミンAが不足することはありません。逆に脂溶性のビタミンA(レチノール)は、とり過ぎれば過剰症になってしまいますから、安易なサプリメントの利用は注意が必要です。

ビタミンAの食事摂取基準表
[表]
ビタミンAの食事摂取基準(μgRAE/日)
※推定平均必要量、推奨量にはプロビタミンAカロテノイドから換算した量を含みますが、耐容上限量には含みません。

ビタミンAは目だけでなく抗酸化機能もあり、がんなどの生活習慣病も予防してくれます。食欲をそそる野菜のオレンジ色や黄色のカロテノイドは、プロビタミンAの働きにより、効率よくビタミンAが摂取でき、過剰摂取も防いでくれます。

[参考文献]
厚生労働省「日本人の食事摂取基準」(2015年版)
詳しくは『佐々木敏のデータ栄養学のすすめ(88〜96ページ)』(女子栄養大学出版部)をご覧ください。

機関誌mio 2019年11月号掲載

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