はじめよう!つづけよう!食DE健康 東京大学大学院教授佐々木先生のためになる栄養学 栄養疫学の第一人者である佐々木先生が、栄養疫学の点から見た食で健康づくりに関する情報をお届けします。

食DE健康テーマ
「脂質(あぶら)」

Q 01コレステロールが高めなのですがやはり揚げ物は控えたほうがいいでしょうか?

A 01実は、揚げ物に使われるサラダ油などには血中コレステロールを下げる働きがあります。

「コレステロールが高いので揚げ物は避けるようにしている」という声をよく聞きますが、それで良いのでしょうか?実は、揚げ物に使われる“あぶら”には血中コレステロールを下げる働きがあるのです。

もちろん、すべての“あぶら”が血中コレステロールを下げるわけではありません。“あぶら”の中の脂肪酸は二つに分けられます。一つはバターやラードなどに多く含まれる飽和脂肪酸と、もう一つはオリーブオイルやサラダ油などに含まれる不飽和脂肪酸です。不飽和脂肪酸はさらに二つに分けられ、オリーブオイルなどの一価不飽和脂肪酸と、サラダ油・ごま油・魚油などの多価不飽和脂肪酸があります。

あぶらの中の2つの脂肪酸図
[図]
あぶらの中の2つの脂肪酸

これをふまえ、下図をご覧ください。対象者は全員同じカロリーの食事をしました。そのうちの5%を炭水化物から飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸のいずれかに食べかえて血中コレステロール濃度を測定しました。

食事中の炭水化物をいずれかの脂肪酸にかえたときの血中コレステロール濃度図(mg/dL)
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食事中の炭水化物をいずれかの脂肪酸にかえたときの血中コレステロール濃度(mg/dL)

総コレステロールもLDLも上昇したのは、飽和脂肪酸だけでした。多価不飽和脂肪酸は下がっています。このように、サラダ油やごま油などの揚げ物に使う“あぶら”には、血中コレステロールを下げる働きがあります。これらの油で揚げ物をすれば、血中コレステロールの上昇は気にしなくてよいかもしれません。ただし、揚げ物のカロリーは高いので、食べ過ぎないようにしてくださいね。

※LDLとは、「悪玉コレステロール」とも呼ばれており、肝臓から血管にコレステロールを運ぶ働きがあります。

血中コレステロールが気になる方は、サラダ油などの多価不飽和脂肪酸を含む食品より、乳製品や肉類などの飽和脂肪酸を多く含む食品を控えましょう。

[参考文献]
Mensink RP,et al.Effect of dietary fatty acids on se-rum lipids and lipoproteins:A meta-analysis of 27 trials. Arterioscler Thromb 1992;12:911-9.
詳しくは『佐々木敏の栄養データはこう読む!(34~42ページ)』(女子栄養大学出版部)をご覧ください。

機関誌mio 2018年5月号掲載

Q 02トランス型脂肪酸は健康によくないと聞きました。控えたほうがよいのでしょうか。

A 02血中コレステロールを上げる結果も報告されていますが、日本人は気にするほど摂取していません。

トランス型脂肪酸は10年ほど前に話題になり、多く含まれているマーガリンなどを控えた人もいるでしょう。確かに血中コレステロールを上げるという研究結果も報告されています。しかし日本人は気にするほどトランス型脂肪酸を過剰摂取しておらず、それより注意すべきことがあります。

トランス型脂肪酸は不飽和脂肪酸の一種で、マーガリンやショートニングなどの加工油脂を作る際にできるものです。LDLコレステロールを増やし心筋梗塞などの原因となる飽和脂肪酸とトランス型脂肪酸のどちらが健康に良くないかを調べる研究が世界中で行われました。

飽和脂肪酸、トランス型脂肪酸をそれぞれ同量摂取したときの血中コレステロールの変化を観察したところ、トランス型脂肪酸のほうがLDLコレステロールの割合が多くなりました。また、ある調査では、日本人はトランス型脂肪酸より飽和脂肪酸を多く摂取しているというデータが出ました。下の図は日本人の飽和脂肪酸とトランス型脂肪酸の摂取源です。

日本人の飽和脂肪酸とトランス型脂肪酸の摂取源図
[図]
日本人の飽和脂肪酸とトランス型脂肪酸の摂取源

飽和脂肪酸を多く取っているので、トランス型脂肪酸より大きく表示しています。全体的にみると、肉類と乳類、油脂類、菓子類が多いですね。健康のためにはトランス型脂肪酸だけ気をつけるより、飽和脂肪酸を含んだこれらの食品の過剰摂取に気をつけたほうが良さそうです。

トランス型脂肪酸も飽和脂肪酸もLDLコレステロールを上げますが、日本人は飽和脂肪酸をより多くとっています。トランス型脂肪酸を控える前に、肉類・乳類など飽和脂肪酸を取りすぎていないか見直しましょう。

※LDLコレステロールとは、「悪玉コレステロール」とも呼ばれており、肝臓から血管にコレステロールを運ぶ働きがあります。

[参考文献]
Yamada M,et al.Estimation of tras fatty acid intake in Japanese adults using 16-day diet records based on a food composition database developed for Japanese population.J Epidemiol 2010;20:119-27.
Sasaki S,et al.Development of substituted fatty acid food composition table for the use in nutritional epidemiologic studies for Japanese populations: its methodological backgrounds and the evaluation. J Epidemiol 1999;9:190-207.
詳しくは『佐々木敏の栄養データはこう読む!(44~52ページ)』(女子栄養大学出版部)をご覧ください。

機関誌mio 2018年6月号掲載

Q 03健康診断で中性脂肪が高いと言われました。“あぶら”を控えたほうがよいですか?

A 03あぶらより、炭水化物を控えましょう。

中性脂肪が高い原因には、運動不足・飲酒・肥満があげられますが、肥満の原因は主に食べすぎですね。肥満はメタボリックシンドローム(以下メタボ)を診断するうえでの必須条件です。メタボの診断基準には中性脂肪とHDL(善玉コレステロール)が使われています。今回は中性脂肪に注目してみたいと思います。

下図をご覧ください。
対象者は全員同じカロリーの食事をしました。そのうちの5%のご飯やパンなどの炭水化物から、牛乳や肉類などの飽和脂肪酸、オリーブオイルなどの一価不飽和脂肪酸、サラダ油やごま油・魚油などの多価不飽和脂肪酸にそれぞれ食べかえたときの中性脂肪値を表したものです。

炭水化物を脂質に食べかえたときの中性脂肪値図
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炭水化物を脂質に食べかえたときの中性脂肪値(mg/dL)

3種類とも全て下がっており、炭水化物をどの脂肪酸に食べかえても中性脂肪は下がるのです。中性脂肪が気になる方は、ご自身の食生活を見直してみてください。炭水化物に偏った食事をとっているなら、炭水化物も脂質もバランスよくとりましょう。

炭水化物、脂質、たんぱく質はいずれもエネルギー源になる栄養素ですが、どれでも必要以上に食べればその分は肥満につながります。また、たとえ肥満でなくても炭水化物を食べすぎれば中性脂肪は上がります。特定の栄養素や食べ物だけを極端に避けたり、それだけを食べたりするダイエットは要注意ですね。

中性脂肪を上げるのは、“あぶら”よりも“炭水化物”です。中性脂肪が気になる方は、日々の食生活で炭水化物をとりすぎていないか見直しましょう。

[参考文献]
Mensink RP,et al.Effect of dietary fatty acids on serum lipids and lipoproteins:A
meta-analysis of 27 trials.Arterioscler Thromb 1992;12:911-9.
詳しくは『佐々木敏の栄養データはこう読む!(53~61ページ)』(女子栄養大学出版部)をご覧ください。

機関誌mio 2018年7月号掲載

Q 04コレステロールが高いので、コレステロールが多い食品を控えたほうがよいですか?

A 04コレステロールを上げるのは、コレステロールが多い食品だけではありません。

コレステロールとは、体内に存在する脂質で、ホルモンなどを合成する材料になります。ほとんどが肝臓でつくられ、その一部が食品由来です。体の中でコレステロールは全身に運ばれますが、その通路である血管の中を単独で移動できないので、脂質やたんぱく質と一緒に運ばれます。

これらをまとめて血中コレステロールと呼びます。この血中コレステロールを省略して“コレステロール”と呼んだため、「食品に含まれるコレステロール=血中コレステロール」という誤解が生じるようになりました。

コレステロールの種類図
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コレステロールの種類

では、血中コレステロールを上げるものは何でしょうか?それは肉類や牛乳、バターなどに多く含まれる飽和脂肪酸です。アメリカの生理学者アンセル・キースが、飽和脂肪酸が血中コレステロールを増加させることを明らかにし、その後たくさんの研究によって、その正しさが再確認されています。

食品由来のコレステロールと飽和脂肪酸の摂取量を減らすと、血中コレステロールがどのくらい下がるのかをみてみると、卵半個分のコレステロールを減らしたときと、牛乳コップ1杯分の飽和脂肪酸を減らしたときの血中コレステロールの下がり方は、ほぼ同じでした。飽和脂肪酸の摂取量は血中コレステロールに影響を与えることがわかります。

厚生労働省の調査によると、近年コレステロールの摂取量は下がり、飽和脂肪酸の摂取量が増加しているそうです。血中コレステロールが高い人は、食品由来のコレステロールを控えるより、飽和脂肪酸を多く含む食品を取りすぎていないか見直す必要があるといえるでしょう。

血中コレステロールが気になる方は、卵などのコレステロールを多く含む食品よりも、飽和脂肪酸をとりすぎていないか今一度見直してみましょう。

[参考文献]
詳しくは『佐々木敏の栄養データはこう読む!(24~33ページ)』(女子栄養大学出版部)をご覧ください。

機関誌mio 2018年8月号掲載

Q 05コレステロール値が「高い」「低い」。長生きはどちら?

A 05単純に「高い」「低い」だけでは判断できませんが、健康で長生きするためには、血中コレステロール値が高いのは危ないと考えていただきたいです。

血中コレステロール値は高いほうが長生きか、低いほうが長生きか。マスコミでは両説とも報じられています。なぜ異なる説が存在するのでしょうか。そこにはデータの取り方、見方にちょっとしたカラクリがありそうです。図1は、アメリカに住む高齢者4,000人の血中コレステロール値を測定し、その後5年間にわたって生死を調べたものです。血中コレステロール値が160mg/dL以下の死亡率は他より6割以上も高いことが目を引きます。この結果から血中コレステロール値は低くないほうがいいと考えてよいのでしょうか。

一方、年齢、性別を分けて調べた研究から、若い人や女性のほうが血中コレステロール値の高い人が多いと分かっています。また高齢者では同じ年齢なら女性のほうが男性より死亡率が低いので、図1の240mg/dL以上の死亡率が低い解釈として、血中コレステロール値が高い人に、比較的若い人や女性が多かったのではないかという見方もできます。

またコレステロールはおもに肝臓で作られ、肝臓の栄養状態が悪いと血中コレステロール値が下がります。肝臓に重い病気を持っている人(血中コレステロール値が低い人)の寿命が短いことは容易に想像できます。このように大切なのは、どれがホントでどれがウソかではなく「血中コレステロール値の高い・低いが原因となってなにか致命的な病気が発生し、それはどのくらい寿命に影響を及ぼすのか」を知りたいのであれば、年齢や性別、健康状態などの違いによる要素を加味した結果を見るべきだということです。その要素を加えたものが図2です。値が最も低いグループの死亡率が大きく下がり、高い人の死亡率は上がっています。

血中コレステロール値と死亡率との関係図
[図]
血中コレステロール値と死亡率との関係

マスコミの健康に関する記事やニュースには「おもしろいけれども健康管理には役立たない情報」が混在します。隠れている要因を正しく解釈すれば、血中コレステロール値が高いのはやはり危ないと考えるのがよいでしょう。

[参考文献]
Corti MC, et al. Clarifying the direct relation between total cholesterol levels and death from coronary heart disease in older persons. Ann intern Med 1997; 126: 753-60.
詳しくは『佐々木敏の栄養データはこう読む!第2版(64~73ページ)』(女子栄養大学出版部)をご覧ください。

機関誌mio 2021年4月号掲載

Q 06コレステロールが心配ですが、卵は1日何個まで食べてもいいですか?

A 061日1個半くらいまでなら、心配なさそうです。

コレステロールといえば卵です。本当に卵で血中コレステロールは上がるのか、卵以外の食事は同じで、卵を食べる量だけを増やしたときの血清LDLコレステロールの変化を調べた17の研究では、食べた卵の数に比例して血清LDLコレステロールは上がりましたが、1日あたり2個くらいまでなら影響はほとんどありませんでした。一方、健康な人の血中総コレステロール濃度を測っておき、その後の心筋梗塞の死亡率との関連を約90万人分ものデータで調べた研究では、血中総コレステロールが高くなるほど心筋梗塞の死亡率が上がっていました。では、卵をたくさん食べれば心筋梗塞になりやすいのでしょうか。

卵の摂取量と心筋梗塞発症率との関連図
[図]
卵の摂取量と心筋梗塞発症率との関連

図は習慣的な卵の摂取量とその後の心筋梗塞発症率との関連を調べた9つの研究をまとめたものです。卵を食べる習慣のなかった人たちと比べた場合の、それぞれの卵摂取量の人たちに心筋梗塞が起こった相対的な発症率ですが、ざっと見て分かるように、卵の摂取量と心筋梗塞の発症率との間にはほとんど関係はなさそうです。なぜ卵の摂取量とコレステロールとの関連、コレステロールと心筋梗塞との関連の研究結果と一致していないのでしょう。まず考えなくてはならないのが、高LDLコレステロール血症の原因はコレステロールの過剰摂取だけでなく、さらに心筋梗塞の原因は高コレステロール血症だけではないということです。食事では飽和脂肪酸の過剰摂取をはじめに考えなくてはなりませんし、喫煙や高血圧、肥満、運動不足も大きな影響を与えます。また「卵を食べると血清コレステロールが上がる」という話は有名なので、コレステロールの高い人たちが卵を控える傾向があります。けれども原因はほかにもあるため、卵摂取量が少ない人の心筋梗塞の発症率が高くなるという恐れもあります。さらに、図の研究では調べている摂取量がひとつの例外を除いて1日に1個半までしか調べていません。それ以上たくさん食べた場合の研究はほとんど存在しないのです。その研究条件の違いから結果が異なっていると考えられます。

これまでの研究結果からは1日1個半くらいまでなら心配なさそうです。それ以上については推測の域を出ないものの、できるだけ控えたほうがよさそうだということになります。

[参考文献]
Rong Y, et al. Egg consumption and risk of coronary heart disease and stroke: dose-response meta-analysis of prospective cohort studies. BMJ 2013; 346: e8539.
詳しくは『佐々木敏のデータ栄養学のすすめ(36~45ページ)』(女子栄養大学出版部)をご覧ください。

機関誌mio 2022年1月号掲載

Q 07健康診断の再検査で「異常なし」と出るのはなぜですか?

A 07高いほうがよくないとした場合、再検査では理論的には下がります。

健康診断で測る値は常にある程度揺れています。1日ごと、時間ごとでも揺れているので、1回測っただけでは分からず、異常値が出たら再検査となります。正常だった人も再検査をすれば異常となる可能性もあるのですが、再検査は1回目で異常値が出た人だけです。健診でひっかかったとは実にぴったりないい方です。この再検査の結果で面白い事実が分かるのですが、この「ひっかかった」人たちが再検査をした際の平均値は、1回目の検査値の平均値よりも必ず低くなるということが理論的にいえるのです。この現象を「平均への回帰」と呼んでいます。この現象は検査値の揺れだけによるもので、生活習慣の変化などはまったく関係のない統計学的な現象なのです。図は血清総コレステロール値を例に見たものです。

血清総コレステロール値に見る「平均への回帰」図
[図]
血清総コレステロール値に見る「平均への回帰」

この「平均への回帰」の性質を利用すると、効かない治療法や効果のない食べ物、サプリメントをあたかも効くかのように見せかけることもできてしまいます。一見、研究めいた結果を見せて「こんなに効く!」とうたった宣伝文句の裏には「平均への回帰あり」と心にとめておくとよいかもしれません。

数字を示されるとそのまま信じがちですが、検査値の多くは揺れています。異常値を指摘されても怖がらずに再検査を受けましょう。一方、異常がなかったといっても「正常高値」であれば「本当は異常値」もありうると考えて生活習慣を見直したいものです。

健診の目的は病気の発見ではなく病気の予防です。結果に一喜一憂せず、健康的な生活習慣について考える機会にしましょう。

[参考文献]
Takashima Y, et al. Magnitude of the regression to the mean within one-year intra-individual changes in serum lipid levels among Japanese male workers. J Epidemiol 2001; 11: 61-9.
詳しくは『佐々木敏のデータ栄養学のすすめ(331~339ページ)』(女子栄養大学出版部)をご覧ください。

機関誌mio 2022年3月号掲載

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